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筆一本で楽々と仕事とをこなす人達が印刷業の中に沢山いました。何本かの筆を用途別に使い分けながらすすめる作業は誰にでもできるものでもなく、自信を持って取り組む姿は印象的でありました。
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定規いらず
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もう20年も前のこと、岩波書店の「岩波文庫」には図版の入っているものがあります。これはすべて岩波書店の図版専門の人達によって描かれています(現在はどうなっているかわかりません)。驚いたのは定規を一切つかわずに直線を引く技術の高さです。正確かつ均等の線を筆で引くのは至難の技だと思います。なんだか中国雑伎団の演舞を見ているようで、思わずのんきに「すごーい」と言ってしまいます。今でも再版を重ねる岩波文庫の図版を見ると、その時の驚きがよみがえってきます。
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色を取るための筆
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オフセット印刷用のフィルムはアミ点によってできあがっていますが、このアミ点を小さくすると仕上がりも薄くなります。とは言っても本当にわずかなもので数ミクロンの世界の話です。色校正に指定された「赤をわずかにオサエル」なんて指示をみると薬品でアミ点をさっとなぞって溶かすのです。こうなると感覚の問題ですから、この職人さんならまかせて大丈夫という暗黙の了解がありました。やはり上手い職人さんはツポを押さえた仕事をしていました。
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案外乱暴
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万能型の筆ですが実際は案外と乱暴に扱われています。書道に使う筆とは違って様々な液体を含ませるし、生産の現場なので手入れもそれほどではありません。ぱぱぱと使って次の作業、といった風景です。とろとろやってるのはダメな職人ということになります。それでもやっぱり人によって差が出るものです。それはちょうど寿司屋の職人みたいなもので、旨い寿司を握る板前さんは調理場もすっきりキレイであるのと同じです。
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消えゆく筆、お金で買えない世界
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そしてやっぱり、この筆も次第に姿を消していってます。それは単に技術の進歩だとかコンピュータ化といった問題ではないと感じます。何かこの数十年、お金で買えるものばかりが横行し、お金で買えない世界が小さくなっているように感じます。私達日本人の文化は極めて精神性に富んだものでしたし、そうした形にならない世界に価値を置いてきました。それが今では、お金があることが幸福の全てであるかのような世界観でいっぱいです。筆一本ろくに使えないのに、あれもこれも欲しがる現代の日本人は何かヘンです。私達は印刷文化を通して、こうした現代の傾向に仁王立ちする気概と信念を持ちたいと思うものです。
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筆を3Dで作ってみました。
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